Little Tales Hidden Within a Jeweliss’s Brooch
それは、ジュエリスのブローチに秘められた小さな物語。
色彩を眠らせる花
遠い昔、空や大地には今よりもたくさんの美しい色がありました。
朝焼けはもっと柔らかな桃色に染まり、
森には生まれたての若葉を思わせる淡いグリーンが満ち、
湖の水色は風を映した宝石のように澄み、
夕暮れは黄金色に輝いていたといいます。
けれど季節が巡るたび、色たちは少しずつ疲れていきました。
春は桜色を使い、
夏は若葉色を使い、
秋は黄金色を使い、
冬は銀色の光を使います。
何度も空や大地を彩るうちに、色たちは静かに休める場所を必要としていました。
そこで季節たちは、丘の上に咲く白い花へ願いを託しました。
すると白い花は、真珠のような花びらをそっと開きました。

やわらかな桜色は朝の光のように舞い降り、
若葉色は風に揺れる木々の香りをまといながら花びらへ溶けていきます。
湖の水色は小さな雫となって花の中心に宿り、
黄金色は夕暮れの名残のように静かに広がりました。
白かった花びらは少しずつ色彩を抱きはじめ、
まるで季節そのものが咲いているかのように輝いたのです。
やがて丘の上にはたくさんの花が咲き、
その花々は寄り添いながら大きな花房を作るようになりました。
それは後に、紫陽花と呼ばれる花でした。
花房の中心には生まれたての若葉を思わせる淡いグリーンが。
その周りには朝露のようにやわらかなアイボリーが。
そして外側には風を映す湖のような水色が静かに広がります。
色と色の境目はなく、まるで季節たちが描いた水彩画のようでした。
その花々の中には桃色を抱くものもあれば、黄金色を抱くものもありました。
真珠色の花びらは色を映すためではなく、
色彩たちを休ませるための小さな寝室だったのです。
色たちは長い眠りにつきながら、次の季節が来る日を静かに待っていました。
六月の終わり。
丘を渡る風が変わる頃になると、花びらはそっと揺れます。
すると眠っていた色彩たちが目を覚まし、小さな光となって空へ舞い上がるのです。
桃色は朝焼けへ。
淡いグリーンは森の木々へ。
水色は風を映す湖へ。
黄金色は実りの畑へ。

色たちは再び世界を彩るため、それぞれの場所へ帰っていきました。
そして役目を終えた花々は、また真珠色の花びらを広げながら次の色彩を待ちます。
それ以来、その花は
「色彩を眠らせる花」
と呼ばれるようになりました。
だから紫陽花には今もさまざまな色が宿るのだといわれています。
それは季節が置いていった忘れものではありません。
次の季節へ渡すために預けられた、大切な色彩なのです。
