Little Tales Hidden Within a Jeweliss’s Brooch
それは、ジュエリスのブローチに秘められた小さな物語。
ワルツが響く庭
白い石壁に緑の蔦がやさしく絡まる古い洋館の中庭には、
四季折々の花が咲く美しい庭がありました。
白い薔薇のアーチをくぐった先には、
長い年月をかけて受け継がれてきた古い噴水がありました。
噴水からは透き通った水は絶えることなく湧き続け、
庭に穏やかな音色を響かせていました。
その噴水には、ひとつの言い伝えが残されていました。
「誰かから受け取った幸せを、また別の誰かへ手渡したとき――水面に光の輪が現れる」
けれど、その輪を見た人はほとんどおらず、
長い年月の中で忘れられかけていた言い伝えでした。
花を育てることが好きなアデリーヌも、その話を幼い頃から聞いていました。
ある春の朝。
いつものように庭を歩いていたアデリーヌは、ふと噴水へ目を向けました。
すると静かな水面に、幾重もの光の輪が広がっていたのです。

まるで誰かが優雅なワルツを踊っているようでした。
アデリーヌがそっと見守っていると、
光の輪の中から白い真珠のような粒がひとつ、またひとつと現れます。
そして粒たちは互いを追いかけるように円を描きながら、
水面の上で静かな舞踏会を始めました。
その光を見た瞬間、アデリーヌの胸によみがえったのは、たくさんの優しさの記憶でした。
祖母から譲り受けた花の種。
長年この庭を守ってきた庭師から教わった剪定の方法。
旅の途中でこの庭を訪れた貴婦人から聞いた花言葉。
そして、自分が育てた花を手にした人々の笑顔。
そのどれもが、誰かから受け取った大切な贈り物でした。
気づけばアデリーヌもまた、花を分けたり、育て方を教えたりしながら、
その優しさを誰かへ手渡していました。
その瞬間、水面の光はやさしく揺れ、
舞っていた真珠たちは静かにひとつの輪となります。

アデリーヌはようやく伝説の意味を理解しました。
幸せとは集めるものではなく、誰かから受け取り、また誰かへ渡していくものだったのです。
それからも噴水には、ごく稀に光の輪が現れます。
誰かから誰かへと、幸せの輪がつながった時だけに、その水面で静かなワルツが始まるのです。
