それはジュエリスのブローチに隠された小さな物語。
遠い昔、夜空には月だけが知る秘密の庭がありました。
そこは雲よりも高く、星々のささやきが聞こえる静かな場所。
銀色の小道の両脇には、雪のように白い光の草花が揺れ、風が吹くたびに真珠色の輝きがふわりと舞い上がります。
満月の夜になると、その庭にはひときわ美しい光の花が咲きました。
花びらは透き通る月明かりでできていて、先端には朝露のような真珠色のしずくが揺れています。

けれど、そのしずくが地上へ落ちることは決してありません。
夜明けとともに静かに月へ還っていくのです。
ところが、ある特別な夜だけは違いました。
百年に一度、月と海が最も美しく輝きを映し合う夜。
ひと粒の真珠色のしずくが風に誘われるように月の庭を離れ、はるか下に広がる海へと舞い降りたのです。
海はまるで大切な宝物を迎えるように、そのしずくをそっと受け止めました。
そして長い年月の中で、そのしずくは美しい真珠へと育まれました。
その出来事を見ていた月は、初めて知る喜びにそっと微笑みました。
それからというもの、百年に一度の特別な夜が訪れるたび、月の庭から真珠色のしずくがひと粒だけ海へ舞い降りるようになったのです。
海はそのたびにしずくをやさしく抱きしめ、長い時をかけて美しい真珠へと育てました。

同じ月の光と海のぬくもりを宿した真珠たちは、いつしか互いを探し合うように集まり、やがて一輪の花のような姿になりました。
その花は「アフロディテ」と呼ばれました。
月の光と海のやさしさから生まれたアフロディテが咲く夜には、誰かの願いがひとつ叶うと言われています。
夢を追う人には勇気を。
新しい一歩を踏み出す人には希望を。
大切な人を想う人には優しいぬくもりを。
そして願いを届け終えたアフロディテの輝きは、月の光とともに夜空へ溶け込み、今もどこかで誰かの願いをそっと照らしているのです。
