Little Tales Hidden Within a Jeweliss’s Brooch
それは、ジュエリスのブローチに秘められた小さな物語。
花と雪の約束
遠い北の森に、一輪の白い花が咲いていました。
銀色に染まったモミの木々が空へ向かって伸び、
枝先に積もった雪は朝日を受けて白いレースのように輝いていました。
雪に覆われた森はいつも静かで、聞こえるのは風が木々を揺らす優しい音だけでした。

その花は誰よりも美しかったけれど、ひとつだけ願いがありました。
「もっと遠くの景色を見てみたい。」
けれど花は根を張り、その場所から動くことができません。
ある冬の日、森に冷たい風が吹き、空から無数の雪の結晶が舞い降りました。
その中のひとつが、風に導かれるようにゆっくりと舞い降りました。
小さな結晶は透き通った花びらを重ねたような姿をしていて、
風が吹くたびに遠い町や海、見知らぬ森を巡っていました。
「私たちは風に乗って旅をするの。」
結晶はそう言って、深い海を映したような青と、
生まれたての若葉のようにやわらかな緑の輝きを花に見せました。
花は目を輝かせながら、結晶が聞かせてくれる旅の話に何日も耳を傾けました。

やがて雪がとけ、森に春の気配が訪れる頃、結晶は再び旅立つ日を迎えました。
「あなたはここで、静かな森に優しい彩りを添えている。
私は世界を巡って、その優しさを伝えていくわ。」
花は微笑み、白い花びらをひとひら託しました。
それから長い年月が過ぎても、旅する結晶はその花びらを大切に抱き続けたといいます。
花びらに宿る優しさは少しずつ結晶へと溶け込み、やがてその輝きは淡い金色へと変わっていきました。
そして今も北の森では、ときどき花のようにも雪の結晶のようにも見える金色の不思議な姿が風に乗って舞うのだそうです。
それは、遠い昔に交わされた花と雪の約束が、今も続いているしるしなのかもしれません。
