Little Tales Hidden Within a Jeweliss’s Brooch
それは、ジュエリスのブローチに秘められた小さな物語。
川底に眠る幸運の泡珠
森の奥深く、木々のあいだからやわらかな光が差し込む、美しい川がありました。
川底には、長い年月をかけて丸く磨かれた白い小石が静かに眠り、
水はガラスのように透き通っています。
流れはいつも穏やかで、水草は風にそよぐ草原のようにゆらゆらと揺れ、
小さな魚たちが時折きらりと横切っていきました。
その川には、いつも寄り添って泳ぐ2匹の金魚が暮らしていました。
ひとりは、夕暮れの空を閉じ込めたような鮮やかな紅色。
もうひとりは、深いガーネットのような落ち着いた赤。
まんまるで愛らしい身体に、ふわりと広がる美しい尾びれ。
2匹はまるで会話をするように、いつも同じ速さで川を泳いでいました。
そして、この2匹には、不思議な秘密がありました。
2匹がぷくぷくと吐く泡は、普通の泡とは少し違っていたのです。
それは、すぐには水面まで昇りません。
小さな泡は川の途中でふわりと漂い、くるくると静かに回り続けます。
朝の光。
夕暮れの赤。
静かな夜の気配。
泡は、その日の川が映した景色を、そっと閉じ込めていきました。

丸く。
透明に。
少しずつ、少しずつ。
そして夜が明けるころ、泡は静かに川底へ沈んでいきます。
ぱちん、と割れることもなく、ふわりと消えることもなく、まるで眠るように。
翌朝になると、昨日まで何もなかった場所に、小さな丸い珠がひとつ増えていました。
紅色。
透明。
銀色。
時には、朝焼けのような淡い桃色。
どの珠も宝石のようになめらかで、光を受けるたびにやさしく輝きます。
川の仲間たちは、それをこう呼んでいました。
「幸運の泡珠」

言い伝えでは、幸運の泡珠を見つけた日には、
心がふっと軽くなるような、小さな幸運が訪れるのだそうです。
探していたものが見つかったり。
会いたかった仲間に出会えたり。
止まっていた一歩を、そっと踏み出せたり。
大きな奇跡ではありません。
けれど、そんな小さな幸運こそが、気づかないうちに
毎日を少しずつ優しく変えていくのかもしれません。
だから川の仲間たちは、毎朝少しだけ楽しみにしていました。
「今日はどんな泡珠が増えているだろう?」
そして今日もまた、2匹の金魚が仲良く泳いでいます。
ぷく。
ぷくぷく。
紅い身体を揺らしながら、2匹は小さな泡を空へ向かって送り出します。
小さな泡は、今日の景色を映しながら、静かに丸く育っていきました。
そして明日の朝。
川底には、またひとつ。
誰かのための幸運が、そっと眠っているのです。
まるで、一枚の絵画が永遠に描き続けられているかのように。
